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メタバースはいつから存在する?歴史と成り立ちを解説

終了目安時間:10分

2022.11.09

近年、よく聞くようになった「メタバース」。2021年10月にアメリカのFacebook社が社名を「Meta Platforms」、通称「Meta(メタ)」に変更したことも大きな話題になりました。現在、メタバースはさまざまな企業でも注目されており、次世代のSNSと称されるほどです。この記事ではメタバースはいつから存在するのか、歴史や注目されはじめた背景などを詳しく解説します。

メタバースはいつから存在するのか? 概念の誕生は1冊の本から

古い本と鍵

最近、ニュースやメディアで話題になっている「メタバース(metaverse)」。仮想空間というと新しいサービスのイメージがありますが、メタバースの概念は1980年代から存在しています。

1981年にアメリカの数学者であり作家のVernor Vinge(ヴァーナー・ヴィンジ)氏がSF小説『マイクロチップの魔術師(原題:True Names)』を発表しました。この小説には、後の仮想空間のモデルとなるコンセプトが描かれています。作中では人々が脳を通じてコンピューターと交信をすることが可能で、ネットワーク上の仮想世界を作っています。

仮想世界の中では現実世界とは異なる姿を装えますが、双方の世界はリンクしており、仮想世界での行動などが現実世界に影響します。現在では映画やゲームなどで仮想空間が存在する設定はおなじみになっていますが、インターネットが普及していなかった時代にメタバースの概念は非常に画期的なものでした。

「メタバース」という言葉の語源

「メタバース」のロゴ

「メタバース」という言葉が初めて世に出たのは1992年にアメリカの作家Neal Stephenson(ニール・スティーヴンスン)氏によって書かれたSF小説『スノウ・クラッシュ(Snow Crash)』です。この小説内でメタバースは、meta(多元的)+universe(巨大空間、宇宙)をイメージした造語として登場しました。

本書は荒廃した近未来のアメリカで、オンライン上に存在する仮想空間=メタバースが構築された世界が舞台です。登場人物はゴーグルに映る画像とイヤホンから聞こえる音声でメタバースにアクセスでき、自分の化身であるアバターを通して仮想世界で活動します。

『スノウ・クラッシュ』は、『マイクロチップの魔術師』と同様に、現実世界ではあり得ない空想的な小説として親しまれていました。さらにGoogle社の共同創業者ラリー・ペイジ氏やセルゲイ・ブリン氏、PayPalの創業者ピーター・ティール氏をはじめとする、世界のトップ企業家やシリコンバレーの技術者などに大きな影響を与えました。SF小説の中の存在だった仮想空間を実現する動きが生まれるきっかけになったのです。

『スノウ・クラッシュ』は日本では1998年に日本語訳が刊行されましたが、その後絶版となりました。2022年1月に早川書房から復刻版が発売されており、電子版もあわせて累計2万6,000部(2022年3月時点)を売り上げています。特にIT企業が多く集まる東京都渋谷区の売り上げが好調で、メタバースに対する関心の高さが伺えます。

▼早川書房『スノウ・クラッシュ』販売ページ

https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000015028/

2000年代のメタバース

お城のイメージ

実際にメタバースが実現されたのは2000年代の初めです。2003年にアメリカのサンフランシスコに本社を置くリンデン・ラボ(Linden Lab)社が完全なオンライン空間「Second Life(セカンド・ライフ)」をリリースしました。創業者であるフィリップ・ローズデール氏はさきにご紹介した『スノウ・クラッシュ』にインスパイアされて「Second Life」の構想を得たといわれています。

従来のゲームのようにミッションや目的、ストーリーはなく、ユーザーはアバターとして仮想空間内で自由に活動して、現実世界とは異なる第二の人生を送る仕組みです。オンラインゲームではあらかじめ運営側から用意された空間がありますが、「Second Life」ではユーザー自身がほぼ何もないところから街や建物を作ります。

さらにユーザーはアバターとしてオンライン上に存在して、同じ空間にいる他のユーザーと自由にコミュニケーションを楽しめます。アバターを自分好みに設定できる点もこれまでにはない新しいアイデアで、ユーザーにとって非常に魅力的でした。まさに『スノウ・クラッシュ』で描かれた仮想世界が現実になったのです。しかし『スノウ・クラッシュ』はディストピア小説でしたが、「Second Life」はその対極に位置しており、仮想空間を楽しむために作られています。

世界や街が拡大するにつれて、イベントやライブを開催したり衣装をはじめとするアイテムを販売したりと活動の幅が広がっていきました。「Second Life」内で生活を送るために必要な通貨は「リンデンドル」といい、アメリカドルと互換性があります。そのため、アイテムや家具の販売、土地の売買など「Second Life」内の経済活動で収益を得るユーザーも出てきたのです。

ローンチから3年後の2006年にはアメリカのBusinessWeek誌が「Second Life」内の不動産売買で100万ドル(当時のレートで約1億1,000万円)を稼いだというユーザーを特集。「Second Life」は一大ブームを巻き起こします。

このブームに世界の大企業も注目しはじめます。2006年にイギリスのReuters社が「Second Life」内に支局を開設。その他にIBMやDELLなどの大企業の支店や有名大学のバーチャルキャンパスが設置されました。2007年4月時点で全世界のユーザーは525万人以上(※1)いました。「Second Life」は2000年代のメタバース創世期を象徴する存在といえるでしょう。

「Second Life」は現在も運営を続けており、2022年には一旦はリンデン・ラボ社を離れた創業者フィリップ・ローズデール氏が戦略的アドバイザーとして同社に復帰しました。メタバースの先駆者としてのノウハウを活かして、アップグレードを行うといわれています。

(※1)出典:【日経XTECH】セカンドライフに参加する企業続々、日産自動車からミクシィ、ISIDまで目的はさまざま

https://xtech.nikkei.com/it/article/COLUMN/20070905/281216/

日本でも一大ブーム

2006年~2007年頃、「Second Life」のユーザーは日本にも広がり、国内でも大ブームになり、企業も続々と参入していきます。電通が2007年8月、「Second Life」内の島に「バーチャル東京」を作り、大きな話題になりました。2007年に大阪で開催された世界陸上と連動したバーチャルスタジアムの開設や人気ゲームとのコラボ、イベントなどさまざまな取り組みを実施しています。

その他の企業もプロモーションやネット通販への誘導、採用目的などで「Second Life」に参加しています。2006年から2007年にかけて「Second Life」に参加したおもな国内企業は次のとおりです。

・日産自動車

・セシール

・ネットエイジ

・エイブルコンピュータ

・電通国際情報サービス

・パルコ・シティ

・マツダ

・ブックオフ

・ミクシィ

・トヨタ

・NTTドコモ

・HIS

国内の有名企業が参入して、あらゆるサービスや特典を提供したこともあり、日本でのユーザーは増加しました。しかし、当時はインターネットの接続環境やパソコンのスペックも現在とは比べものにならない時代であり、ユーザー層は限られていました。「Second Life」の醍醐味である3Dグラフィックの世界を体感するためには、相応のスペックのパソコンが必要でどちらかというとコアなユーザー向けだったのです。

また、当時はFacebookやTwitter、Instagramなどは日本に導入されておらず、SNSといえばミクシィが主流でした。テキスト中心のSNSが一般的だった時代では「Second Life」の人気は定着せず、2009年にはブームは終焉しました。

メタバースの第2フェーズ

パソコンでオンラインゲームをする男の子

「Second Life」の人気が沈静化したあと、10年ほどかけて再びメタバースのブームがやってきます。PCやスマートフォン、タブレットなどのユーザー側のインフラが整ったことやVRやAR技術の普及が背景にあります。

2017年にアメリカのEpic Games社がオンラインゲーム「フォートナイト(FORTNITE)」をリリースしました。PlayStationやXbox、Nintendo Switch、Windows PC、スマートフォン、タブレットなどあらゆるデバイスに対応しており、異なるプラットフォーム間でも対戦できたり、コラボしたりなどができるのが魅力です。

「フォートナイト」はいわゆるバトルロイヤルゲームに位置しており、100人のプレイヤーが同時にバトルを始め、最後に生き残ったプレイヤーが勝者になります。一人でも参加できますが、ペアや4人チームでも参加が可能で、ボイスチャットを利用しながらプレイできるため、ユーザー間のコミュニケーションツールとしても楽しめます。

さらに「フォートナイト」内の「パーティーロイヤル」モードでは、映画を上映したり人気アーティストのライブが開催されたりと、リアルなエンターテインメントを楽しめる点もこれまでのオンラインゲームにはなかった点です。「クリエイティブ」モードではユーザー自身がアイテムを作成したり、アバターの仕草を変えられたりとさまざまな楽しみ方ができます。

さらに有名ユーチューバーや芸能人がゲーム実況を行っていることも人気に拍車をかけています。「フォートナイト」は、2021年時点で世界中に3億5,000万人もの利用者を有しています。

プラットフォームの提供へ

前述した「Second Life」をリリースしたリンデン・ラボ社は、2017年にソーシャルVRプラットフォーム「Sansar(サンサール)」をスタートさせました。4年の開発期間を経て、リリースされた「Sansar」は「Second Life」第2弾ともいわれていますが、コンセプトが異なります。

単なる仮想空間の提供から、ユーザーが独自の仮想空間を作りやすいプラットフォームを提供するというスタンスに変わっています。ユーザーはひとつの仮想空間で活動するのではなく、インターネットのようにさまざまな場所に自由に移動できるイメージです。自分が作った仮想空間を他のユーザーに提供する自由度の高いプラットフォームとしての役割も持っています。

特定のコンテンツを利用したり体験したりするために入場料を設けるなどのマネタイズの仕組みを重要視している点も「Second Life」とは異なります。「Sansar」は、2020年にWookey Project Corp.に売却されましたが、現在もサービスは継続しています。

日本での人気

日本では、Nintendo Switch用ゲームとして2020年3月に「あつまれ どうぶつの森」が発売されました。発売直後から人気を博し、世界でも認知されているほどのゲームです。任天堂が発表した「2022年3月期第3四半期 決算説明」によると累計セルスルーは国内だけでも1,000万本(※2)を超えています。

「あつまれ どうぶつの森」は無人島を舞台に、何もない状態から建物や家具などのアイテムを手に入れ、自分だけの暮らしを作っていく、大人から子供まで楽しめるゲームです。季節ごとのイベントなどもあり、永続的にプレイを楽しめる点が大きな特徴といえます。

また、2021年12月には一般社団法人日本メタバース協会(Japan Metaverse Association = JMA)が発足。メタバースの利用者保護やビジネス環境の整備を目指しています。さらに2022年は「メタバース元年」になると予想されています。

(※2)出典:【任天堂株式会社】2022年3月第3四半期 決算説明

https://www.nintendo.co.jp/ir/pdf/2022/220203_4.pdf

メタバースが再び注目される背景

NFTのイメージ

メタバースが近年注目され、利用するユーザーが激増した背景には、さまざまな要因がありますが、2020年からの新型コロナウイルスの感染拡大も一因です。世界各地でロックダウンが行われ、自宅で気軽に楽しめるメタバースの存在価値が高くなってきたといえます。外出する機会やイベントが減り、人とのコミュニケーションも希薄になりがちです。そこで人々はソーシャルディスタンスを保ちながら、仮想空間でシリアスな現実とは異なる生活や世界を求めているのです。

さらにリモートワークが増加しているなかで、WEBミーティングなど非対面のコミュニケーション方法が多様化しています。メタバースを利用した三次元ミーティングなどが必要といわれています。例えばFacebookが開発したVR会議アプリ「Horizon Workrooms」などが該当します。このサービスは仮想空間内にオフィスを構築して、アバターの姿でミーティングなどを行う画期的なものです。

メタバースは個人だけで楽しむだけでなく、ビジネスシーンでも広く利用されています。

ユーザーインターフェイスの向上

AI技術の発展などで、ユーザーとメタバースの製品やサービスとの接点が明確になり、より興味をひくコンテンツが増えてきました。メタバースを提供するプラットフォームが増加して、多くの人が自分の好みに近いコンテンツを利用できるようになったのです。

VR技術の進化

数年前に比べて、メタバースを体験するためのデジタル技術が各段に進歩したことも理由としてあげられます。特にメタバースに不可欠なVR技術の進歩はめざましいものがあります。メタバースの登場当初は、VRゴーグルひとつをとっても重くて使いづらいものでしたが、技術の進化によって軽量、ワイヤレス化など使いやすさが向上しています。

総務省が発表した「平成30年版 通信白書」によると、世界のVRヘッドセット出荷台数は2017年時点で2,796.7万台でしたが、2020年には6,202.7万台(※3)と予測しています。

さらにインターネット環境の向上も大きな要因です。大容量のデータ通信が可能になったことで、ユーザーはより快適に仮想空間を体験できるようになりました。

(※3)出典:【総務省】「平成30年版 通信白書」

https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/pdf/n1100000.pdf

NFTへの注目

メタバースとともに「NFT」にも注目が集まっています。NTF(Non-Fungible Token)=「非代替性トークン」はデジタル所有権とも呼ばれ、オンライン上に存在する画像や動画などを流通、売買するためのシステムです。非代替性と名づけられているように、偽造やコピーができない鑑定書付きのデジタルデータを意味します。

オンライン上のデータは不正に改ざんされたり、コピーされたりする問題がありました。そこで暗号資産などに活用されている、複製しにくいブロックチェーン技術を用いたのがNFTなのです。ブロックチェーンと同様に、取引の記録が残るのも特徴です。

NFTを活用すれば、メタバースを利用する上で得た資産などに所有権や価値を持たせられます。メタバースでのマネタイズや経済活動などに役立つ技術といえます。

▼メタバースの今後の展望については、こちらの記事でも詳しく解説しています。

大きな可能性を持つメタバースに注目!

近年、「トレンドワード」や「バズワード」といわれるメタバースですが、1990年代にはその概念があり、2000年代にはすでに存在していました。その後、インターネット環境やデジタル技術の進化によって、現在最も注目したいジャンルになっています。再び注目を集めている要因はさまざまにありますが、いずれも時代に即しています。

Meta Platforms社のCEOであるマーク・ザッカーバーグ氏もメタバースを「次世代のインターネット」ととらえているほどです。大きな可能性を持つメタバースに今後も注目して、毎日の生活をより楽しいものにしましょう。

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