メタバースに進出する企業が増え、多くの話題を集めています。会社や個人の交流、ビジネスの場として需要は高まっているものの、「メタバースに何の技術が使われているかは知らない」といった人は多いのではないでしょうか。 この記事では、メタバースがどのような技術や仕組みで成り立っているのかを解説します。「インフラ」「経済活動」「体験」などの分野ごとに詳しく紹介しますので、ぜひご覧ください。 ▼「メタバース」の技術の話以前の、そもそもの基礎知識についてはこちらの記事で解説しています。あわせてご覧ください。
メタバースのインフラを構築する技術3つ
メタバースは、オンライン上に存在する仮想空間です。この空間を構築する「インフラ」とも言える技術として、以下3つが挙げられます。
- 1.ブロックチェーン
- 2.3DCG
- 3.インターネット・5G通信
順番に説明します。
1.ブロックチェーン
ブロックチェーンとは、データの取引記録を複数のコンピュータで保管する仕組みです。取引記録の単位「ブロック」には、データの現在の保持者やこれまでの取引履歴といった全てのログが記録されています。
ブロックチェーンの主な特徴が、「データ改ざんが困難で透明性が高い」「システムを安定稼働できる」の2つです。ブロックチェーンを採用したメタバースは、サービスを安全かつ安定して稼働させやすくなります。
さらに、メタバース内アイテムの取引履歴をブロックチェーンに記録しているため、アイテムの改ざん防止にも効果的です。ユーザーの利便性やサービスの透明性を向上させるべく、メタバースにもブロックチェーンが浸透しつつあります。
2.3DCG
メタバースの醍醐味であるバーチャル空間を作り上げる技術が、3DCGです。メタバース空間は、立体的なコンピュータグラフィック(CG)で描写されています。建物や風景に限らず、アバターやアイテムを描写しているのも3DCGです。
また、3DCGは仮想世界を表現するだけでなく、現実の空間やアイテムを3Dモデルで再構成する場合にも活用されています。たとえば、大和ハウス工業は「メタバース住宅展示場」を公開しています。ユーザーはPCやスマホからアクセスし、3DCGで再現された物件を歩き回って自由に見学可能です。
そのほか、メタバースに実在の企業が出店し、実在の商品を3Dモデル化して展示・販売するケースもあります。3DCG技術は仮想空間の生成のみならず、現実に存在するモノの再現にも役立っています。
3.インターネット・5G通信
メタバースは、基本的にインターネットを介してアクセスします。インターネット関連技術の中でもとりわけ重要となるのが、高速で安定した接続を実現する5G通信です。
5G通信は従来の通信規格に比べ、高速かつ低遅延な通信が可能で複数接続に耐えられます。メタバースは3DCGを多用するため、送受信するデータ量も膨大です。加えて、多人数の同時接続が前提となり、サービスを安定的に提供するためには5G通信が欠かせません。
また、多くのメタバースは「AWS」などのクラウドコンピューティングで構成されています。5G通信が普及すればクラウドコンピューティングにおけるデータ送受信が低遅延・高速になり、ユーザーはより快適にメタバースを利用できるようになるでしょう。
この記事でわかること
メタバースの経済活動を実現する技術2つ
ブロックチェーン技術を用いたメタバースでは、経済活動が生まれています。メタバースの経済を支える技術として、「NFT」と「仮想通貨(暗号資産)」の2つがあります。
1.NFT
NFTとは、ブロックチェーン上に取引履歴を保管しているデジタルデータです。「非代替性トークン」とも言います。メタバースにおけるNFTは、アイテムや土地が「唯一無二のデータ」だと証明するために活用されています。
アバターの服をNFT化した場合、服のオリジナルデータの取引履歴がブロックチェーンに記録されます。服のデータを第三者が複製したとしても、複製データの記録はブロックチェーンにはありません。記録がないため、他のユーザーは複製した服が「偽物のコピー品」だと見抜けるわけです。
オリジナルの服の記録はブロックチェーンに保管されており、「唯一無二のデータ」だと証明できます。こうしたNFT化により、メタバース内のアイテムにも資産価値および売買による経済活動が生まれました。
2.仮想通貨(暗号資産)
仮想通貨(暗号資産)とは、ブロックチェーン技術で管理されているデジタル通貨です。
メタバースの中には、独自通貨をブロックチェーンで管理し、仮想通貨化しているプラットフォームも存在します。たとえば、メタバース「The Sandbox」は、ゲーム内通貨「SAND」を仮想通貨として発行しています。
SANDはThe Sandbox内だけでなく、実際の仮想通貨取引所でも取引可能です。そのため、単なるメタバース内通貨の枠を超えて投資銘柄としても流通しています。もちろん投資だけでなく、SANDのような仮想通貨はNFT化したアイテムや土地の売買にも用いられています。
▼メタバースで使用される仮想通貨やNFTについては、こちらの記事もあわせてご覧ください。
(「30_メタバース 銘柄 仮想通貨 一覧」への内部リンク挿入想定)
(「4_メタバース nft」への内部リンク挿入想定)
メタバースの体験を支える技術3つ
続いて、メタバースの体験を支える3つの技術を解説します。
- 1.VR(仮想現実)
- 2.AR(拡張現実)
- 3.アバター・トラッキング
1つずつ見ていきましょう。
1.VR(仮想現実)
VR(仮想現実)とは、視界を360°覆う仮想映像を表す技術および空間です。ユーザーはVRゴーグルを装着することで、VR空間を体験できます。顔の動きに合わせて映像も動くため、高い没入感を得られるでしょう。目の前に本当にメタバース空間が存在するような、リアルな体験ができる技術です。
全てのメタバースがVRに対応しているわけではなく、VRに対応していないメタバースも珍しくありません。また、VR対応のメタバースであっても、PCブラウザやスマホアプリからアクセス可能なサービスもあります。とはいえ、メタバースの臨場感を最大限表現するためには、VRは欠かせない技術と言えるでしょう。
2.AR(拡張現実)
AR(拡張現実)とは、現実世界の映像にバーチャル情報を重ね合わせる技術です。スマホなどのカメラ機能やARグラス、位置情報により現実空間のデータを取得し、テキストやCGを表示します。
ARは、現実と仮想空間を繋ぐ技術として開発が進む分野です。なお、ARをさらに発展させた技術として「MR(複合現実)」があり、VR・AR・MRを組み合わせた技術を「XR」と呼びます。ARグラスはVRゴーグルに比べて軽量で扱いやすく、メタバースの普及を後押しするデバイスとして期待されています。
3.アバター・トラッキング
メタバースを楽しむために、自分の分身となるキャラクター「アバター」は欠かせない存在です。髪型や体型を変えたり、アイテムを購入して着替えたりできるため、仮想空間内の「もう1人の自分」を自由に作り上げられます。
アバターは単なる空間移動のみならず、ジェスチャーを変更するモーション機能や表情アイコンなど、さまざまな機能で豊かに感情を表現できます。さらに、トラッキング技術に対応しているメタバースであれば、対応機器を用いてアバターに現実の自分の表情や身振りを反映させることも可能です。
メタバースへの導入が期待される技術4つ
ここでは、メタバースへの導入が期待されている技術を4つ紹介します。次の目次をご覧ください。
- 1.AI(人工知能)
- 2.デジタルツイン・IoT
- 3.触覚グローブ
- 4.エッジコンピューティング
それぞれ解説します。
1.AI(人工知能)
メタバースへの活用を目指し、開発が進む技術の1つがAI(人工知能)です。SNS「Facebook」を提供するMeta社は、メタバースに特化した「AIアシスタント」の開発プロジェクトを2022年に発表しました。
同プロジェクトは、メタバースにおけるユーザーの行動支援を目指しています。具体的なAIアシスタントのイメージ映像として、「ARデバイスを装着したユーザーに、AIアシスタントが料理の手順を指示する」といった活用例を示しました。
さらに、同プロジェクトは「ユーザーの音声指示によるメタバースの構築」計画のデモ映像も公開しています。こうしたAIによるサポートが実現すれば、ユーザーの利便性はさらに向上するでしょう。
2.デジタルツイン・IoT
デジタルツインとは、現実のモノや環境のデータを収集して仮想空間上に再現する技術です。IoT機器を使って現実のモノの状態を観測しているため、単純な再現ではなくリアルタイムな情報が反映されます。
現在、デジタルツインを実用化している分野は製造業が中心です。デジタルツインおよびIoT技術をメタバースに取り入れれば、メタバース内に現実のデータを持ち込めます。たとえば、実際の自分の体形を反映させたアバターで服を試着したり、現実世界の気象をメタバースの天気に反映したりできるようになるでしょう。
3.触覚グローブ
メタバースの体験をよりリアルにする技術として、触覚再現の取り組みが活発化しています。「触覚グローブ」をメタバースに用いることで、ユーザーは仮想空間のデータを本当に触っているかのような感覚を得られるでしょう。
触覚グローブ自体はすでに実用化されており、2021年にHaptX社の製品が国内向けに発売されました。同製品は、VRのオブジェクトに触れる感覚を再現します。ただし、使用時には複数の専用装置が必要なため、現時点では一般ユーザー向けとは言えません。
一方で、メタバース向け触覚グローブの開発に取り組んでいるのがMeta社です。将来的には「VRゴーグルと連動したリアルな体験」と「買いやすい価格での提供」の実現を目指し、開発を進めています。
4.エッジコンピューティング
エッジコンピューティングは、メタバースの負荷軽減のために導入が望まれています。エッジコンピューティングとは、IoT機器やその近くにあるサーバーなどの「エッジ(ネットワークの端)」でデータを処理する技術です。
通常のクラウドコンピューティングの場合、データは一旦クラウドに集約してから処理します。エッジコンピューティングは、エッジである程度データを処理してからクラウドに送信するため、負荷が分散される仕組みです。
メタバースにおいては、VRヘッドマウントやARグラスに処理を分散させる活用方法が期待されています。5G通信の普及とともに膨大化が見込まれるデータに耐える上でも、エッジコンピューティング技術は重要です。
技術活用によりメタバースで実現できること3つ
ここまで、メタバースを支えるさまざまな技術を解説しました。これらの技術は、以下3つのメタバースでできることと結びついています。
- 1.没入感の高い体験やコミュニケーション
- 2.不動産投資やアートの販売
- 3.現実の商品の購入
具体的に紹介します。
1.没入感の高い体験やコミュニケーション
画面で見るよりも没入感の高い体験には、VRが大きく貢献しています。VRゴーグルを使えば、散策やゲームプレイ、音楽ライブ・イベント参加などを、より臨場感のある体験へと変えられるでしょう。また、メタバースの大人数が集まるイベントでもユーザーが遅延なく楽しめる環境は、クラウドコンピューティングや5Gなどのインターネット関連技術が支えています。
さらに、メタバースの体験の1つに、ユーザー同士のコミュニケーションも挙げられます。トラッキング技術を使えばアバターに自分の表情やジェスチャーを反映できるため、対面に近いリアルな交流が可能です。
2.不動産投資やアートの販売
メタバース内の土地やアイテムのNFT化により、不動産投資やアート販売などの経済活動が活性化しています。取引の際は、NFTと同じくブロックチェーン技術を用いた仮想通貨を使うケースが一般的です。
NFT化された土地の不動産投資は、現実世界の仕組みとほとんど変わりません。土地を貸し出す「賃貸収入」や土地の売買による「売却益」など、さまざまな投資方法があります。
アイテムをNFT化すれば、オリジナルのNFTアイテムの販売が可能です。メタバース内で使えるファッションやアバターだけでなく、イラストなどのNFTアートもメタバース内に展示して直接販売できます。
3.現実の商品の購入
メタバースでは、実在する商品のショッピングも行えます。企業がメタバース内にバーチャル店舗を出店しており、商品を再現した3DCGや商品の映像・画像を陳列しています。ユーザーはアバターを使って店舗を訪れ、商品から直接ECサイトにアクセスして購入する仕組みです。
メタバースのショッピングはECサイトとは異なり、店員のアバターによる接客を受けられます。また、ユーザー同士で一緒にアクセスできるので、店員や友人と交流しながら買い物できる点も魅力です。
メタバースへの出店企業は増えており、たとえばローソンやテレビ朝日、サンリオといった多様な業界からの進出事例があります。ECサイトにはない顧客体験を付加できる場として、メタバースへの出店需要は今後も伸びていくかもしれません。
今後の技術発展によるメタバースの未来
メタバースの利用がライトユーザーにまで普及すれば、ビジネスや交流の新しい生活圏として成長する可能性を秘めています。中でも注目を浴びている分野が、医療のメタバース進出です。
順天堂大学と日本IBMは、医療特化のメタバース「順天堂バーチャルホスピタル」の共同研究を開始しました。仮想空間に順天堂医院を再現し、予約や問診、外出が困難な患者の交流場所の創設を目指します。また、メタバース体験が患者の脳へ及ぼす影響も研究し、新たな治療法へ活かすことも目的の1つです。
こうした医療メタバースが実現すれば、将来的には自宅にいながら医師の診察を受けられるようになるでしょう。医療とメタバースの融合は、今後の発展に期待したい分野と言えます。
メタバースはさまざまな技術で構築された仮想空間
メタバースは、インターネットやブロックチェーンなどの「インフラ」、VR・ARといった「体験」の技術によって成り立っています。さらに、最近ではNFTと仮想通貨で「経済活動」が生まれ、新時代の経済圏としても機能しています。
将来的にエッジコンピューティングや触覚グローブなどの技術が活用されれば、メタバースはより身近で魅力的な空間として発展していくのではないでしょうか。
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