基礎知識

業界動向

注目のメタバース! セカンドライフの失敗と同じ道をたどる可能性は?

終了目安時間:10分

2022.10.30

メタバース(オンライン上の3D仮想空間)のビジネス活用が注目される今、2007年に一時的な人気を集めたセカンドライフの失敗が気になりませんか? 本記事では、セカンドライフが失敗したといわれる理由や、新しいテクノロジーによるメタバースと当時のセカンドライフとの違いを解説。新しいメタバースへの理解を深めるための情報としてご一読ください。

メタバース対応に向けて要チェック! セカンドライフが失敗した理由とは?

理由を説明するイメージ

まずは、セカンドライフとはどのようなものだったのかを振り返り、失敗したといわれる理由として考えられるポイントを解説します。

一過性のブームに終わった「セカンドライフ」とは

セカンドライフ(Second Life)とは、アメリカのリンデンラボ社(Linden Lab)が2003年から提供開始したメタバース(オンライン上の3D仮想空間)。ユーザーがメタバースでアバター同士のコミュニケーションを楽しみ、仮想通貨「リンデンドル」での不動産購入や創作物の売買なども自由にできるプラットフォームビジネスとして展開されたサービスです。

リンデンラボ社が「リンデンドル」を実際の米ドルに換金可能にしたことで、メタバースで得た利益をリアルの世界で活用するユーザーも増加。2007年3月末の参加者は約500万人以上にのぼり、仮想空間での取引金額が1日あたり約180万米ドルに達しました。この金額を日本円に換算すると、2億1,200万円を超えるほどの金額になります(2007年3月末のドル円相場118.05円で換算)。

2007年7月にセカンドライフの日本語版が提供開始されると、国内でも急速に人気を集め、2007年12月末の時点で150を超える国内企業や団体が進出。広告やマーケティング戦略としての参入が目立ちました。

しかし仮想空間ブームに乗ってみたものの明確な利用価値が見出せないと判断した法人ユーザーが、2008年には続々と撤退。結果としてセカンドライフの盛り上がりは一過性に終わりました。

新しいテクノロジーによるメタバースが注目される2022年、リンデンラボ社の創業者であるフィリップ・ローズデール氏が1月に戦略アドバイザーとして同社に復帰することを発表。セカンドライフの新たな事業拡大の動きが再び注目されています。

セカンドライフが失敗したといわれる理由

2007年に日本でも急速に人気を集めたセカンドライフが、翌年には急速に衰退してしまった理由として考えられる問題を見ていきましょう。

 

PCの処理能力や通信速度の問題

セカンドライフの人気が出た2007年当時、メタバースに問題なく対応するにはハイスペックのパソコンが必要で、一般の個人ユーザーが導入するにはハードルが高いものでした。ログインできても途中でフリーズしたり動作が遅くなったりという問題が、個人ユーザー離れの原因にもなったといわれています。

 

またリアルに近い感覚で利用できるメタバースの設計に対応するには、当時の3G通信では情報処理能力が不足していました。のちの4Gで高速・大容量通信が可能になり、さらに5Gでは超高速・多数同時接続・超低遅延が可能になった流れを考えても、2007年当時のインターネット通信環境はメタバースの普及に対応しきれていなかったと言えるでしょう。

大規模イベントが不可能でもメディアや企業の盛り上がりが先行

当時のセカンドライフでは、1つのSIM(島)に入れる人数が50人程度。この制限が企業の大規模プロモーションイベントへの活用を難しくしていました。

一方、3Dインターネットへの期待をあおるニュース報道などは先行して過熱。それによって実験的な3D広告導入を試みる企業や宣伝効果を期待して参入する企業が急増することとなり、期待する効果が得られなかった企業が続々と撤退する事態を招きました。

日本語でのコミュニケーションがSNSよりも不便

セカンドライフの公用語は英語なので、日本語対応可能な空間が限られていたことも日本でのユーザーが減少した理由のひとつです。アバター同士で出会ったユーザー間のコミュニケーションがうまくできずにつまらないと感じる人がいたり、英語でのコミュニケーションはハードルが高いと感じる人もいたでしょう。

2008年にはアメリカ発のSNSであるTwitterとFacebookが日本語サービスを開始。日本語による情報共有の手段としては、セカンドライフよりもSNSのほうが便利だったことも、セカンドライフのユーザー離れを加速させました。

 

操作方法が難しい

セカンドライフを利用するために、ハイスペックなパソコンに専用ソフトをダウンロード。やっとログインできても基本動作の操作さえ習得が難しく、さらにメニューが多く多機能なセカンドライフのブラウザを使いこなすまでには時間がかかるという問題がありました。

また操作方法をマスターしても、仮想空間で自由な活動ができることを魅力とするセカンドライフはミッションクリアを楽しめるゲームのような要素が少なく、退屈さを感じることもあったようです。

 

無料利用で楽しめるサービスが少ない

セカンドライフの中では無料利用できるサービスが限られていたことも、個人ユーザーが減少した理由です。

何かを作って売りたい場合に商品を作るためのリンデンドルが必要。また土地(場所)を確保するにも、アバターをおしゃれにデザインするにもリンデンドルが必要という仕組みによって、無料利用の範囲で利用してみたい個人ユーザーが簡単に楽しめないという一面もありました。

新しいメタバースとセカンドライフの流行当時との違いは何?

さまざまな可能性のイメージ

新しいメタバースがセカンドライフの失敗と同じ道をたどってしまうのかについて考えるために、両者の違いを5つの項目に分けて解説します。

スマホの普及や通信環境の違い

2007年当時と現在との大きな違いは、利用可能なデバイスや通信環境にあります。スマホが一般に広く普及。4Gに加えて5G通信も始まり、対応可能な情報量が増加して、通信スピードも高速から超高速への時代となり、コンテンツの質も上がっています。

多人数同時接続が可能になったことで、メタバースで開催できる参加イベントの規模も拡大。また、スマホ・タブレット・パソコンなどユーザーが利用しやすい端末を選べるマルチデバイス対応であることでも、ユーザーにとって利便性がアップしています。

例:『XR World』

株式会社NTTドコモが提供するメタバース。仮想空間を散策しながらアバター同士のコミュニケーションや音楽・ライブ映像などを楽しめます。

https://official.xrw.docomo.ne.jp/

コロナ禍でオンラインコミュニケーションが広く普及

2020年から始まったコロナ禍で、人と人が実際に会わなくても可能なコミュニケーションの様式が広く普及。現在はコミュニケーションの場でのデジタル環境の活用がより身近になり、2007年当時とは様変わりしています。

オンラインコミュニケーションが普及した一方で、Web会議やリモートワークにやりがいや達成感を感じにくいという人が多いという問題も。そこでアバター同士がリアルの世界と近い感覚でコミュニケーションをとれるメタバースの応用が、課題解決の糸口にもなると考えられています。

進化したメタバースに対応するVRデバイスやソフトの普及

今後のメタバース市場拡大に向けて、さらなるVRデバイスの普及とVRコンテンツの増加が見込まれています。VRヘッドセットは従来よりも性能がアップして使い勝手がよくなる一方で、価格は安くなる傾向です。

総務省が公表している『令和3年版情報通信白書』では、英国の調査会社Omdiaによる世界のAR/VRハードウェア出荷台数予測が、2023年には約3億8,200万台になる見込みとされ、これは2020年の約2倍。またAR/VRソフトウェア・サービス売上高では、2023年には2020年の約2.2倍となる69.6億ドルに達すると予測されています(※)。

※出典:総務省『令和3年版情報通信白書』補論 デジタル経済の進展とICT市場の動向

https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/pdf/n0100000_hc.pdf

進化したテクノロジーによってメタバースの活用ニーズもさまざまな業界に拡大。たとえば医療サービス分野や公共インフラ整備事業などでも、メタバースの技術を活用する試みがすでに始まっています。

例①:『順天堂バーチャルホスピタル』

順天堂大学と日本アイ・ビー・エム株式会社による共同研究。メタバース内に順天堂医院の実物を模した施設があり、新しい医療サービスを開発中です。

https://www.juntendo.ac.jp/news/20220413-05.html

例②:『メタバース(仮想世界)を用いた川づくり』

国土交通省 九州地方整備局が、メタバースを活用してインフラ整備の新しい設計方法を開発しました。

https://www.qsr.mlit.go.jp/site_files/file/n-kisyahappyou/r3/22011902.pdf

ブロックチェーン技術の応用によるNFTの活用

ブロックチェーン技術によってデータのコピーや改ざんを防ぎ、唯一無二のデジタル資産の取引が可能となっているのが現在のメタバースです。

ブロックチェーンやNFTの活用が、メタバースでのユーザー同士のデジタルアイテム取引や二次流通を拡大させる可能性も。今後はメタバース内にクリエーターが収益を得やすい市場がますます創出されていくことが予想されています。

例①:メタバース内のウェアラブルNFT

世界的なファッションデザイナーであるコシノヒロコ氏が、アバターが着用するアイテムを3Dデザイン・NFT化して販売。

https://www.hirokokoshino.com/4847/

例②:『NFT鳴門美術館』

日本初のNFT特化型美術館が、リアルの世界の美術館とメタバース内の展示とのコラボレーション企画で作品を世界に発信。

市場拡大に合わせた環境整備やルール策定の動きも

2021年、世界的なIT企業であるFacebook社が社名をmetaに変更し、メタバース事業の強化を発表したことで、メタバース市場の成長に大きな影響をもたらしました。日本国内でも市場環境の整備やユーザーの権利保護などを目的とした複数の業界団体が設立され、メタバースに関係する企業や団体が参画しています。

 

・日本メタバース協会

・日本デジタル空間経済連盟

・Metaverse Japan(メタバースジャパン)

・NPO法人バーチャルライツ  など

ルール策定の動きでは、都市連動型メタバースのガイドライン策定のための組織であるバーチャルシティコンソーシアムが、2022年4月に『バーチャルシティガイドラインver1.0』を公開。メタバースの運用に対する共通ルールの整備が着々と進んでいます。

以上のようなテクノロジーの変革をはじめとしたさまざまな要素で、現在のメタバースはかつてのセカンドライフの再来とは断定できない環境にあると言えるかもしれません。

▼メタバースの今後の展望については、こちらの記事もあわせてご覧ください。

今後のメタバース市場の動向や新着情報に注目!

2022年に注目されている新しいメタバースは、セカンドライフが人気を集めた当時とは取り巻く環境が大きく変化しています。そのため、失敗といわれるような一過性のブームで終わってしまう可能性の予測をするには、今後のメタバースの動向を注視して判断していく必要がありそうです。

メタバースは、ビジネスへの活用や個人の趣味・娯楽の世界が広がるだけでなく、さまざまな分野の事業への応用が進んでいます。メタバースの今後にしっかり注目しながら、活用機会を検討してみてください。

お問い合わせ

Metaverse Mediaに関するお問い合わせはこちら