メタバースは今後急速な市場拡大が予測されています。2021年に世界的な大企業Facebookがメタバース事業の強化を発表。日本企業のメタバース活用事例や今後提供予定のサービスも多くなりつつあります。 本記事ではメタバースが注目される理由や今後の可能性を、2022年最新情報とともに解説。メタバースの基礎知識としてぜひご一読ください。
この記事でわかること
メタバースが今後ますます注目される5つの理由
はじめに、メタバースの今後の動向が昨今注目されているきっかけや理由について、5つの項目に分けて解説します。
Facebookがメタバース開発を強化! 社名もMetaに変更
2021年10月、世界の最大手IT企業Facebook社がメタバース事業強化の発表と同時に社名をMetaに変更。このニュースは、世界中のさまざまな業種の企業が展開する今後のIT戦略に大きな影響を与えたと考えられています。
2022年、日本国内の大手企業の動きでは、株式会社NTTドコモがマルチデバイス型メタバース「XR World」の提供を3月31日から開始。5月にはソニーグループ株式会社が、新時代のライブエンタテインメント体験の開発・提供への取り組みとして、メタバースの活用推進を発表しました。
2022年3月にPwCコンサルティング合同会社が実施した「メタバースのビジネス利用に関する日本企業1,000社調査」(※1)では、調査集計対象となった1,085社のうちの87%がメタバースを今後のビジネスチャンスと捉え、すでにメタバースの活用を推進または検討中であると回答した企業は38%を占めていることが報告されています。この調査結果のように、現在すでにさまざまな業種でメタバース活用への注目が高まっており、今後もサービス開発や事業展開が進められていく見込みです。
※1 出典:【PwCコンサルティング】メタバースは「ゲーム・エンタテイメントのための仮想空間」からビジネス活用のフェーズへ
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/metaverse-business-survey.html
VRやAR技術の発展で仮想空間の利用が簡単に
ゲームやエンタメ分野での利用から始まったVR(Virtual Reality=仮想現実)は、VRゴーグルやVRヘッドセットを装着することによって仮想空間に入りこむことを体感できる技術です。現在、一般にメタバースと呼ばれるものの多くが「VRメタバース」で、バーチャル空間での展示会・店舗・会議などの事例が今後も増えていくでしょう。
一方、AR(Augmented Reality=拡張現実)はスマートフォンやARグラスなどを利用して、現実の世界に仮想の存在である文字や画像などのデジタル情報を重ねることが可能な技術。『ポケモン GO』は「ARメタバース」の代表的な事例であり、現実の世界をもとにバーチャル世界が広がるものです。AR技術では、同じARメタバースに参加する人どうしの体験共有の精度がより高くなっていくことが見込まれています。
コロナ禍で、VRやAR技術のビジネス領域への活用が加速しました。VRとAR、さらにMR(Mixed Reality=複合現実)などもあわせた技術の総称がXR(Extended Reality、またはCross Reality)です。5Gによる通信環境やXR技術の発展とともに、メタバースはますます身近なものになりつつあります。
サービス提供や商品販売に活用可能な新しいビジネス環境
リアルの世界で不可能だったことが可能になるメタバースは、これまでになかった新しいサービスの提供や商品販売の機会などが生まれる世界です。さまざまな新しいビジネスチャンスの例として、以下のようなことが挙げられます。
・新規事業の展開
バーチャルイベント・バーチャル観光・メタバースで使用するデバイスやアプリの販売など
・マーケティングへの活用
販売商品やサービスのマーケティング・高単価な商材を気軽に試せる機会の提供・顧客データ収集など
・生産性向上
社内コミュニケーション環境の改善・遠隔拠点の視察やモニタリング・災害対応のシミュレーションなど
コロナ禍で進化が加速したリモートコミュニケーション
急速に普及したオンライン会議に注目してみた場合、メタバースがオンライン会議システムと違うポイントは、複数の会議やイベントの間を移動したり、他の参加者がどのように動いているかがわかったりすること。また、特定の時間を設定しなければならないオンライン会議とは異なり、メタバースでは24時間いつでも接続できることです。
またメタバースは、人材教育や研修などのロールプレイスペースとしての活用が可能。ワークプレイスとしての応用では、メタバースがコミュニケーションの場となってアバターが本人の表情まで再現するなど、遠隔でもお互いの考えていることを伝えやすくコミュニケーションの質が高まります。
たとえば株式会社NTTドコモが開発した遠隔接客システムでは、VR対応の3Dアバターにリアルタイムに表情を伝送することを可能にしました。また、株式会社KDDI総合研究所が開発した表情予測技術では、人のまばたきや口の動きなど0.2秒後の表情を先読みして3Dアバターに反映することを実現。このように仮想空間でリアルの世界に近い快適な体験ができる技術の開発が進んでいます。
仮想通貨やNFTのようなデジタル資産投資の増加
仮想通貨(暗号資産)やNFTが流通するメタバース。ビットコインなどで知られる仮想通貨だけでなく、NFT(Non-Fungible Token=非代替性トークン)を発行して紐づけたデジタルコンテンツなども仮想空間ではデジタル資産投資の対象として取引されます。
メタバース仮想通貨は、仮想空間での商品売買や投資などに利用可能です。またNFTは非代替性、すなわち代替や複製が不可能な唯一無二(1点もの)のデジタル資産を指します。バーチャル空間での不動産売買・デジタルアイテム・アート作品など、高額取引に活用されていることが特徴です。
海外では、特にスポーツ関連のNFTの普及も目立ちます。実在する選手やチームに関連する動画コンテンツや画像の購入・転売などでの活用も増加。一方、日本国内では法的な整備がまだ及んでいない部分もあるのが現状ですが、メタバースでの経済や社会活動の価値を高める重要なポイントと考えられています。
メタバースの活用事例を紹介! 今後展開予定のサービスも
今後のメタバース関連市場への参入を検討中の方に向けて、実際の活用事例や今後の事業展開構想などの例をご紹介します。個人的にメタバースのサービスを体験してみたい方も、気軽に試せるものを探してみてください。
さまざまな商品の販売・購入が可能な『バーチャルマーケット』
株式会社HIKKYが運営する、バーチャル空間最大級のマーケットフェスティバル。2018年に初開催されて以来、規模を徐々に拡大しながらすでに7回開催済みのVRイベントです。世界中からの来場者は、これまでに100万人以上に達しています。
2021年12月の開催時には、出展者数が601サークル、出展企業は約80社にのぼりました。次回の開催期間は2022年8月13日から28日までが予定されています。
入場無料で、VR機器を持っていない方でもパソコンやスマートフォンがあればブラウザで来場可能。自分の3Dアバターがなくても既製のアバターを利用できるので、気軽に多くの方が参加できるメタバースのマーケットイベントです。
バーチャル会議室『Horizon Workrooms』
Meta社が提供するメタバース上の会議室です。ユーザーがどこにいても、仮想空間の同じ部屋で仕事ができます。
いつも使っているデスクやキーボードなど、互換性があるツールならばバーチャル会議室の机の上に置くことが可能。共同作業や相互のコミュニケーションがスムーズで、そばで一緒に仕事をしているような自然な感覚を体験できます。
バーチャルルームは、座席の配置や部屋の広さも変更可能。VRヘッドセットがなくてもパソコンのビデオ通話から参加すれば、バーチャルルームのビデオスクリーンに映るしくみです。対応人数はVR参加が最大16人、ビデオ参加との合計最大50人までとなっています。
百貨店業界大手が運営する『REV WORLDS(レヴ ワールズ)』
株式会社三越伊勢丹が提供する仮想都市コミュニケーションプラットフォーム。お買物体験だけに限らず、期間限定のイベント参加や、メタバースで出会った人とのコミュニケーションなどを楽しめるサービスです。
スマートフォンのアプリで利用可能な仮想空間は参加無料(連携しているECサイトでの商品購入などは有料)。疑問点があるときは、さまざまなサポートをしてくれるサブアバターがいるので便利です。
アプリ内の通貨であるREVポイントがたまると着せ替えショップで好きなファッションアイテムと交換できるので、おしゃれに興味がある方は特に楽しめます。
国土交通省がメタバースを河川の整備計画説明に活用
国土交通省九州地方整備局では、川づくりの地元説明会にゲームエンジンを活用して、メタバースで整備後の河川の疑似体験を可能にした設計手法を開発。もともと3Dゲームを制作するためにあったゲームエンジンは、現在では幅広い産業分野で活用されているシステムです。
従来は模型やイメージパースを利用する手法だったところ、メタバースの活用によってコストを抑えた3Dモデルの提供が可能に。2021年12月に全国初の取り組みとして、山国川(福岡県吉富町)の川づくり説明会(住民との合意形成)で使用されました。今後は世界に向けてこの技術を発信していくための検証が重ねられるとのことです。
自治体と複数の参画企業による都市連動型メタバース
実存する街が仮想空間に拡大され、街の魅力を伝えるためのメタバース活用例もあります。
『バーチャル渋谷』
渋谷区公認の配信プラットフォーム。スマートフォンからでも簡単に参加可能なバーチャル空間です。
2020年5月の立ち上げ以来、年に数回のバーチャルイベントを開催。2021年5月には渋谷区公認のバーチャル原宿もオープンしています。2022年春の「バーチャル渋谷 au 5G シブハル祭 2022」では、音楽ライブやサッカー日本代表戦の観戦イベント、劇場版名探偵コナンのファンイベントなどが行われました。
『バーチャル大阪』
大阪府と大阪市が取り組む都市連動型メタバース。2025年に大阪・関西万博が予定されているなかで、大阪や日本の魅力を世界に発信する場として、2021年12月に一部エリアの公開からスタートしました。
2022年2月28日から入場可能になった「新市街」エリアは、道頓堀の街の風景が再現され、ライブステージやイベントへの参加、商店街でのショッピングなどが楽しめる空間です。
ユーザーの体験から創造される大阪の魅力が詰め込まれたコンテンツや、新エリアの拡張などが今後も予定されています。
開発中の新しい医療サービス『順天堂バーチャルホスピタル』
順天堂大学と日本アイ・ビー・エム株式会社が研究開発を開始した、順天堂医院を模した施設をメタバースの空間に開設する取り組み。リアルの世界で実際に順天堂医院に行く前に、バーチャルで病院を体験できる環境の構築が検討され、仮想空間で医療従事者・患者・家族などの交流を可能にする構想です。
また、説明が難しい治療の疑似体験を可能にすることで、患者側が実際の治療を受けるときの気がかりや悩みを軽くできるかの検証も行う予定であると発表されています。
2022年中にサービス提供開始予定『SKY WHALE(仮)』
ANAグループのANA NEO株式会社が提供する、メタバースで世界中に旅行に行けるエンターテインメントサービス。さらに旅行だけでなく生活全般にサービスを拡充していくことを予定しています。
このメタバース事業における保険商品開発やサービスの実証実験を行うことについて、ANA NEO株式会社と損害保険ジャパン株式会社が基本合意書を締結。メタバースの利用環境の安心・安全も考慮した新しいライフスタイルの提供を目指す取り組みが進められています。
損害保険会社がメタバース上に新事業開発拠点を開設
三井住友海上火災保険株式会社が、社内外のボーダーを越えるプロジェクトとして、2022年3月に『メタバースプロジェクト』をスタートしています。メタバースに新事業拠点(GDHメタ)を置き、メタバースを活用した保険や新商品開発を推進。リアルの世界とメタバースをつなぐ保険加入方法や営業機会の場を構想しています。
2022年8月に開催される『バーチャルマーケット 2022 Summer』にも出展予定で、メタバースを活用した新しい保険商品やサービスの企画が進行中です。
メタバースが今後もたらす可能性と解決すべき課題とは
今後の成長や拡大が見込まれるメタバースですが、ポジティブに捉えられる可能性が多い一方で、解決が必要な課題なども残されています。ここでは可能性と課題の両面について解説していきますので、知っておくべきポイントとして押さえておきましょう。
今後の可能性:メタバース市場の拡大がリアルの世界も発展させる?
メタバースは今後どのように発展していくと予想されるでしょうか。メタバースがもたらす可能性について、具体的に考えられていることを見ていきましょう。
仮想空間ではリアルの世界よりも実現可能なことが増える
リアルの世界では物理的に不可能だったことがバーチャルで可能に。これは、メタバースのアバターによって自分の夢をかなえられるかもしれないことを意味します。その結果、新しいサービスや商品の提供などの動きが生まれるでしょう。
さらに、バーチャル空間で始まった新しい文化が現実世界にも影響をおよぼし、現実世界の新しい文化の創造や発展につながる可能性もあると予測されています。
総務省国際戦略局が公表している資料(※2)には、将来、リアル領域で人間の到達が難しい空間(極地、宇宙、海洋・海底など)で、アバターロボットを宇宙ネットワーク経由で操作する次世代型メタバースが実現する構想も盛り込まれています。
※2 出典:【総務省国際戦略局 宇宙通信政策課】Beyond 5Gの実現に向けた宇宙ネットワークに関する技術戦略について
デジタルコンテンツ制作による収益を得やすくなる可能性も
メタバースに関連するコンテンツ制作について考えた場合、アバターのファッションや仮想空間で利用するアイテム、サービスなど、デジタルコンテンツ表現の自由度が上がります。さまざまな分野のデザインが融合し、今までになかった何かを創作できる機会が増えることで消費が促され、経済の発展にもつながるでしょう。
ファンとクリエイターによるコミュニティでの共同制作活動などが可能になったり、仮想通貨やNFTの活用が増えるとともにユーザーどうしのコンテンツ取引や流通が生まれたり、コンテンツ創作から消費までの形式にも変化が起きる見込みです。このような流れのなかで、クリエイターが収益を得やすい市場の創出が期待されています。
日本から世界にコンテンツを発信しやすくなる
メタバース空間には現実の世界のような国境がないため、異文化の交流や融合が進みやすい環境です。そのため、外国のクリエイターとの共同制作の機会も増えることが予想されます。
メタバースで活用されるメディアコンテンツ関連のビジネスでは、これまで以上に世界への発信がしやすくなる一方で、より強い競争力も必要となるでしょう。しかし制作マネジメントや交渉力を備えて臨めば、世界市場で戦えるコンテンツに携わるチャンスが拡大するとも考えられています。
今後の課題:メタバースに必要なルールの策定や環境整備
メタバースの市場規模拡大とともに今後解決しなければならない重要課題は、複数のメタバース間で通用するルール作りや、新たなサービスやビジネスの環境整備にあります。
【2022年最新】メタバースの運用および利用の指針|未整理項目は継続議論も
2022年4月22日、KDDI株式会社・東急株式会社・みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社・一般社団法人渋谷未来デザインが参画する組織であるバーチャルシティコンソーシアムが「バーチャルシティガイドライン ver.1」(※3)の策定を発表。このガイドラインによって、メタバースの開設や運用時の注意点や検討すべき事項などが明確化されました。
このガイドラインはメタバースに携わる事業者・クリエイター・ユーザーの共通ルールとして、創作物の著作権やアバターの肖像権などの項目のほか、都市連動型メタバースに関する指針も含まれています。しかしまだ整理されていない部分も残されているため、「ガイドラインver.2」に向けて議論が継続されることとなりました。
今回の未整理事項としては、たとえば以下のような内容が挙げられています。
・メタバースでの意匠権や商標権の保護
・複数のメタバース間の相互運用性
・メタバースプラットフォーム間の移動にともなうユーザー個人情報の取り扱い など
※3 出典:【バーチャルシティコンソーシアム】バーチャルシティガイドライン ver.1
http://shibuya5g.org/research/docs/guideline.pdf
需要を高めるにはVR関連デバイス・ツール・コンテンツの普及が必要
メタバースの利用が今後広く一般の人たちに拡大していくためには、VRヘッドマウントディスプレイが現在よりも購入しやすくなることが必要です。しかしVRデバイスの価格や大きさなどの面で、まだ購入のハードルが高いと考える人もいます。
メタバースの一部はスマートフォンで参加可能であっても、VRのスペックが必要なコンテンツには対応できません。そのため、スマートフォンを利用する消費者がまだ多いうちは、VRでこそ楽しめるコンテンツ表現の導入が加速しづらいとも考えられます。
しかし、魅力あるVRコンテンツが増えなければ、メタバースの新しい表現への注目の維持やデバイスの普及も難しいでしょう。このような堂々巡りに陥る懸念をどのように解決していくかも、今後の市場拡大に向けた課題です。
供給側の事業者が増えるには技術者の人材育成が必要
VRコンテンツのクリエイターや、メタバースの空間設計が可能な技術者の育成が遅れているため、人材が不足しています。XR関連の人材確保の課題も、メタバースの市場拡大に向けて解決していくことが必要です。
メタバース開発にスキルを活かせる人材は、IT業界やゲーム業界のなかだけに限らず、多方面の業界に潜在しているとみられています。しかし今後需要が高まるXR領域の技術に関して認知が十分に広がらないうちは、人材を集めにくいでしょう。
今後はメタバース開発事業の認知度を上げる活動や、副業を可能にするなどの労働環境整備で人材の流動性を高めていくことが必要になると考えられ、行政からの支援が期待されています。
メタバースは今後の開発競争に注目!
メタバースは、2022年中にもVRデバイスやツール、コンテンツなどの開発競争にますます拍車がかかり、市場拡大が進む見込みです。ビジネスに導入すれば業界のボーダーを越えた新しい連携が生まれ、新しい収益の機会を得られる可能性もあるでしょう。
個人の生活のなかでメタバースのサービスを利用してみる場合も、時間の確保や移動の必要がなく、リアルの世界では不可能だったことが可能になるという新しい体験ができます。
2022年下期から2023年にかけてのメタバース開発競争に注目して、さまざまな活用機会を検討してみてください。
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