近年急速に注目されるようになったメタバースという単語にはどのような定義があるのでしょうか。3Dゲームやオンライン会議など幅広い用途で活用されているメタバースは、一般的には仮想空間と仮想空間サービスを指す言葉とされています。この記事では、ハッキリしないともいわれているメタバースの定義について解説します。
この記事でわかること
メタバースとは仮想空間のこと
メタバースはメタとユニバースを組み合わせた造語
メタバースはアメリカの作家ニール・スティーヴンスンの「スノウ・クラッシュ」(SF小説・ハヤカワ文庫)で使われたのが最初といわれている造語で、meta(超・越)とuniverse(宇宙)を組み合わせたものです。スノウ・クラッシュはドラッグの名称で、ドラッグを仮想空間に持ち込む設定となっています。本作が刊行されたのは1992年ながら、メタバースが単語として注目を集めるようになったのは2020年頃で30年も経過しています。
一般的には仮想空間を指す言葉
メタバースは一般的に「仮想空間」および「仮想空間サービス」を指す言葉(総称)として用いられています。ただし、メタバースと聞いて仮想空間を思い浮かべても、仮想空間がそのままメタバースに結びついて理解されているとは限りません。30年前から使われている言葉とはいえ、2022年現在では誰もが知っている単語だとまではいえないでしょう。
また、メタバースは法令や公的機関が正式に定義する言葉ではなく、固有名詞でもないため必ずしも統一的に使用されているわけではありませんし、定義の一覧もありません。実用的な言葉・概念としての歴史が浅いこともあって、使用する人や団体、場面によって定義が変わり得る点に注意が必要です。メタバースと呼ばれるものにはさまざまなタイプの仮想空間(とそのサービス)が存在しています。
メタバースに関連する名称としては、メタ社がよく知られています。日本でも利用者が多いSNSの一種であるフェイスブック(Facebook)を展開する企業Facebook,Inc.が2021年10月にMeta Platforms,Inc.に社名を変更したものです。メタバース関連事業に注力するための社名変更として注目を集めています。
インターネット上で展開する
メタバースとはインターネット上で展開される仮想空間・仮想空間サービスであり、オフラインを前提としていません。インターネットに接続できる端末があり、ネットがつながっていれば世界中どこにいても使えます。メタバースはインターネットを介したリアリティの高い社交空間と呼ぶことも可能です。それぞれが必要な利用形態で相手とつながる便利なコミュニケーションツールであり、さまざまな可能性を秘めています。
さまざまな定義と要件
大枠としては(インターネット上の)仮想空間や仮想空間サービスとして認識されているメタバースですが、細かい部分まで統一された定義がありません。そのため、複数の団体や著名人などがそれぞれの定義や要件設定を試みています。
まず、バーチャルリアリティ関連の情報発信や講習会の開催などを行っている特定非営利活動法人日本バーチャルリアリティ学会では、メタバースの定義として3次元シミュレーション空間を持つ、自己投射性のあるオブジェクト(アバター)が存在している、複数アバターによる同一の3次元空間の共有ができる、空間内にオブジェクトを創造できるといった内容の4要件を定めているようです。
次に、アメリカの投資家として知られるマシュー・ボール氏によれば、メタバースには以下を内容とする7要件があるとされています。
・永続的である
・同時性
・同時参加ユーザー数が無制限
・参加者が投資や売買などの経済活動を行える
・デジタル世界と物理世界にまたがる
・プラットフォームを超えた相互運用性
・多数の企業や個人による多くの体験・コンテンツの提供
最後に、アメリカRoblox社のCEOであるデイビット・バシュッキ氏によるメタバースの8要素の内容を紹介します。
・Identity(アイデンティティ)
・Friends(友人)
・Immersive(没入感)
・Low Friction(軋轢が少ない)
・Variety(多様性)
・Anywhere(地理的に無制限)
・Economy(経済システム)
・Civility(社会的規範)
アバターを介して行動できる3DCGの仮想空間ならメタバース
メタバースではアバターを操作して行動する
仮想空間・仮想空間サービスであるメタバースではアバターが行動します。3DCGで構築された空間内で自分の代わりとなるアバターを操作することで、経済活動などさまざまな行動が可能です。メタバースでは、コントローラーによる操作だけでなく、ボディアクションを活用してアバターを動かせる点が大きな特徴といえるでしょう。
また、メタバースで使用するアバターに関してはさまざまな問題提起がなされています。メタバースの定義以上に注目されているのが肖像権、パブリシティ権(顧客誘引力の排他的利用権)といった法的な権利関係です。アバターの外見は著作権保護の対象となる反面、パブリシティ権はないとされています。メタバースが比較的新しい概念であることから、今後はアバターを含めた権利関係が整備される可能性があります。
さて、メタバースは3DCGで構築された仮想空間におけるアバターの活動が基本ではあるものの、必ずしも3Dだけがメタバースというわけではない点に注意しましょう。スマホで利用可能な2D空間や、3Dゲーム内の2D演出などでメタバースと呼ばれるものがあります。メタバースの定義の曖昧さが感じられる部分であると同時に、メタバースの柔軟性ともいえるでしょう。
VRなどの仮想と何が違うのか? 違わないのか?
メタバースよりも早くから認知度を高めている概念、技術にVR(仮想現実)やAR(拡張現実)、サイバースペース(電脳空間)などがあります。ネット上ではメタバースとVRは何が違うのかといった質問がよく見受けられますが、これらの技術とメタバースは異なるものであるだけでなく、同列に比較すべきものでもありません。
どちらも仮想であることから似たようなモノだと考える人もいるでしょう。しかし、メタバースは仮想空間自体またはそのサービスであり、VRは現実世界にいるような体験をする技術または手段です。VRなどの技術は、メタバースを構築するために必要な技術として利用されている点で大きな関係があります。
いつでも使えるそこにある空間
メタバースはアプリケーションソフトウェアや一般的なコミュニケーションツールなどとは異なり、シャットダウンすることでゼロに戻るわけではない点が大きな特徴のひとつです。前述したさまざまな定義や要件にあるように、メタバースは永続的でオープンな空間となっているため、自分が使っていないから落ちている(稼働停止している)というものではなく、いつでもそのままの状態で使えます。
メタバースに定義される主な分野は3つ
メタバースといえばまずはゲーム
メタバースは年々広がりを見せており、いろいろな場面で利用可能な仮想空間・サービスとして期待大です。その中で、メタバースといえばゲームを思い浮かべるケースが多いように、現在はゲームが代表的な仮想空間サービスとなっています。
メタバースの代表活用例といえるゲームの遊び方はゲームによってまちまちです。アバター選びやアバターの操作方法に慣れてしまえば、自由な空間で思い切りゲームを楽しめます。
コミュニケーションツールとしてのメタバース
メタバースはアバターを介してのコミュニケーションツールとしても活用されています。従来型のコミュニケーションツールで対面しようと思えば自分の姿を出すのが一般的であるのに対し、メタバースならアバターが代わってくれるため、どのような態勢や状況であっても気にする必要がありません。接続できる範囲も相手も多く、可能性は無限です。
ビジネスにも使えるメタバース
ゲーム、コミュニケーションツールに続く3つめのメタバースがビジネスで使うメタバースです。この分野ではコミュニケーションツールとしてのメタバースをビジネスシーンで利用する形態としての仮想空間サービスが各種誕生しています。
先に述べたように、アバターが活躍してくれるため、スーツやユニフォームではなくリラックスできる服装でテレワークするといった活用法もアリです。また、セミナーやライブイベントをオンラインで実施するといった使い方もできます。単に画面のこちら側から参加するというのではなく、アバターを行動させることによって現場にいる雰囲気や一体感を味わうことが可能です。
メタバースで人気のゲームタイトル
大ヒット作「あつまれ どうぶつの森」
メタバースの定義を語るとき、わかりやすい例としてゲームが挙げられます。その際、よく取り上げられるのが大ヒットゲーム「あつまれ どうぶつの森」(Nintendo Switch用ゲームソフト)です。2022年時点ではメタバースまたはメタバースに極めて近いゲームの代表例であり、メタバースを理解しやすい活用例となっています。
「あつまれ どうぶつの森」は、どうぶつの森シリーズで初となる無人島を舞台とするゲームで、島での生活をより豊かなものへと作り上げる醍醐味を味わえるメタバースゲームです。たぬき開発が主催する無人島移住パッケージに参加するカタチをとっており、アバターのパーツ選びや移住先の島選びが終わるといよいよメタバースをじっくり楽しむ時間となります。Nintendo Switch Onlineに加入することでオンラインプレイが可能です。
「ファイナルファンタジーXIV」
有名ゲームシリーズの「ファイナルファンタジーXIV」もメタバースとして語られるゲームタイトルです。ただし、「ファイナルファンタジーXIV」をメタバースとすることについては疑問を投げかける意見があります。とはいえ、メタバースの定義が曖昧であることから、どのタイトルであれメタバースの要件を増やせば該当しなくなり、減らせば該当する可能性が高いといえるでしょう。
本タイトルは世界各国の大勢が参加するオンラインRPG(ロールプレイングゲーム)です。幅のあるメタバースの定義に該当するかどうか悩むよりも、楽しい時間を過ごすことのほうがメリットが大きいでしょう。
「メイプルストーリー」
「メイプルストーリー」は育てる、しゃべる、協力する、冒険するといった行動を仲間と一緒に楽しめる無料オンラインRPGです。こちらも「ファイナルファンタジーXIV」と同様にメタバースとの相違を指摘されるケースがあります。これらのゲームがメタバースと異なるとされる理由として、有料アイテムが他のゲームでは使用できない点などが挙げられているようです。
「フォートナイト」
バトルロイヤルゲーム、シューティングゲームの「フォートナイト」は、メタバースに注力する企業である米Epic Games, Inc.の人気ゲームです。メタバースを語るときには取り上げられることが多いタイトルだといえます。2022年5月には国内で株式会社TOGEKIがフォートナイト専門とするメタバース制作スタジオを設立するニュースが流れるなど、注目度抜群です。
▼おすすめのメタバース関連ゲームについては、こちらの記事でも詳しく紹介しています。
テレワークを加速させるメタバース
オンライン会議
オンライン会議といえばWebカメラやテレビ会議システムなどを想像するビジネスパーソンも少なくないでしょう。そうした従来の概念を打ち破る存在として、メタバースがあります。遠隔地間を結んで仕事をする基本的な考え方は同じでも、眼前に広がる空間は別です。アバターを利用できるメタバースを使えば、オンライン会議が捗りテレワークのハードルを下げる効果を期待できるでしょう。
バーチャルオフィス
テレワークを加速させるメタバースといえば、利便性の高いバーチャルオフィスの空間があります。ここでもアバターの活用が重要です。リアルのオフィスをイメージできるとともに、実際のオフィスとは異なり、楽に空間を移動できるといったメリットがあります。
Horizon Workrooms
ビジネス会議用VR「Horizon Workrooms」は、VR(仮想現実)空間にアバターが集まることで、世界中のチームメイトが顔を合わせることができます。画面を分割してアバターを並べるのではなく、会議室そのものが画面内に展開しており、室内のテーブルに座っているかのようなイメージでの参加が可能です。公式にはメタバースではなくVR空間と称していますが、メタバースのオンライン会議として注目されています。2022年5月時点でリリースされているのはベータ版です。
Mesh for Microsoft Teams
Microsoft MeshとTeamsの融合による「Mesh for Microsoft Teams」は、広告などで提供予定が2022年と発表されているメタバースです。共同での作業が可能なMixed Reality機能を備えています。オンライン会議のための空間だけでなく、臨場感や没入感の高いロビーなどの空間を利用可能です。
自分なりの定義でメタバースを有効活用する
メタバースの詳細な定義は、検索してもコレといって決めつけられるモノがありません。大枠としてインターネット上に展開する仮想空間、そのサービスであることは間違いなく、永続的で同時性のあるもの、いわばオープンな空間です。4要件や7要件、8要素など定義づけを行う人や団体による違いが存在する点と最近の動向を踏まえ、自分なりの定義を持っておけばよいでしょう。メタバースは定義よりも有効活用できるかどうかが重要です。
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